パラローイングPARA ROWING
2019年シーズン強化活動総括
パラローイング委員会
2019年シーズン目標は「世界選手権におけるパラリンピック本戦出場権獲得」とした。結果として実現できなかった事は厳しい現実として受け入れなければならない。しかし競技歴が浅いとはいえ各選手は高い適応能力を見せ、昨シーズンと比べても向上できた。技術的、身体的に向上できた。
残された出場権獲得のチャンスは来年4月末のアジア・オセアニア大陸予選と5月中旬の世界最終予選である。それまでの期間において選手の競技力向上をサポートできるように尽力していく。以下、今シーズンの結果を総括すると共に、来シーズンに向けた課題を整理する。
≪2019年シーズン 国際大会結果≫
●インターナショナルパラローイングレガッタ(2019年5月 イタリア・ガヴィラテ) ※二部制大会
第一部
種目 | タイム / 順位 / 参加クルー数 |
---|---|
PR1男子シングルスカル(遠藤) | 11:01.04 / 10位 / 23クルー |
PR3男女混成舵手付きフォア (坂口、齊藤、西岡、八尾、立田) |
8:23.10 / 8位 / 10クルー |
PR3男子舵手なしペア(西岡、有安) | 10:05.01 / 10位 / 12クルー |
第二部
種目 | タイム / 順位 / 参加クルー数 |
---|---|
PR1男子シングルスカル(遠藤) | 11:12.03 / 10位 / 23クルー |
PR3男女混成舵手付きフォア (坂口、齊藤、西岡、八尾、立田) |
体調不良者発生により棄権 / 10クルー |
PR3男子舵手なしペア(西岡、有安) | 8:32.04 / 11位 / 13クルー |
〔レース総評〕
PR3メンバーは初の海外遠征者が多い中、自分たちのパフォーマンスをしっかりと発揮した。編成して3ヶ月余りでの参戦であったため、レースが上手く組み立てられなかった事は否めないが、初遠征としては十分成果を得ることができた。PR1については昨年も同じレースに参加していることもあり、しっかりと自分に集中してレースに挑めていた。昨年20秒以上の差があったクルーと5秒差という状況に迫っており、世界との差を確実に埋めることも出来ている。
〔課題〕
PR3の中で体調不良者を出してしまい、レースを棄権せざるをえなかった。海外遠征時の選手ケア体制が課題となった。
●世界選手権(2019年8月 オーストリア・リンツ)
種目 | タイム / 順位 / 参加クルー数 |
---|---|
PR1女子シングルスカル(市川) | 12:29.24 / 14位 / 14クルー |
PR1男子シングルスカル(遠藤) | 11:00.69 / 20位 / 23クルー |
PR3男女混成舵手付きフォア (齊藤、有安、西岡、八尾、立田) |
7:52.72 / 14位 / 18クルー |
〔レース総評〕
この大会に照準を合わせ準備してきたが総じて完全に力不足と言える結果となった。各国の選手層もかなり変わっており、テクニックより「強さが足りない」と感じた。PR1男女シングルスカルは力負けもそうだが、レースに向けた心理的な準備も甘かった。PR3舵手付きフォアは組んで半年という状況では上出来のレース展開であったが力負けした。
各クルーとも、レースを重ねるにつれQ毎のペース配分などレース戦術は向上した。
〔課題〕
来シーズンに向け、陸上トレーニングメニューはフィジカルを重点強化し選手のパワー向上の必要性が浮き彫りになった大会となった。強豪国とは体格・パワーだけでなく、選手の可動域の格差も大きかった。今後の選手発掘でのクラス分け基準整備の課題となった。
●アジア選手権(2019年10月 韓国・チュンジュ)
種目 | タイム / 順位 / 参加クルー数 |
---|---|
PR1女子シングルスカル(市川) | 13:07.63 / 2位 / 3クルー |
PR1男子シングルスカル(遠藤) | 11:19.15 / 3位 / 6クルー |
PR3男女混成舵手付きフォア (有安、齊藤、八尾、西岡、立田) |
8:02.24 / 2位 / 4クルー |
〔レース総評〕
世界選手権以降、フィジカル強化を再度見直し大会に挑んだ。結果としては全種目でメダル獲得できたが、レース内容は勝ちきれないものとなってしまったため、満足できるという事はない。ただ、各種目共に技術(スカルチーム:レンジの確保と正確なキャッチ、フォアチーム:クイックなキャッチからのドライブ)を世界選手権以降課題としてきた内容に対してチャレンジし、短期間の間でそれぞれ改善が見られたことは大きな成果であった。特にフォアは技術面において短期間で有効な効果が見られ、スタートから500mのラップタイムの向上(1分53秒⇒1分49秒:約4秒の短縮)が図れた。
〔課題〕
PR3舵手付きフォアは、決勝レース中に故障者を出してしまい、2位に終わった。PR1選手でも褥瘡が発生しており、選手のケア体制は引き続き課題となる。特に褥瘡は脊椎損傷者にとっては競技者としてのみではなく私生活もまともに過ごせなくなる致命傷となるためきちんと定期的に観察できる環境を作る事を心掛けなければならない。
技術の改善がある程度見られたものの継続できるフィジカルの強さが足りないため、高いスピードを維持できない状況となっている。今後、フィジカル強化を一層求め、選手にも挑戦してもらえるように働きかけなければならない。
≪2019年シーズン強化活動取組みと2020年に向けての課題≫
総じて初めての挑戦の連続であり、多くの失敗も発生したが過去の代表活動としても十分に世界と戦うための土台形成ができたシーズンであった。半年間で3度も海外遠征を行うという過去にないタフなシーズンを乗り切れたことで、チーム全体として世界目線のトレーニングが出来るようになった。パラリンピック本戦出場権を争う大会が半年後に迫っているが、今のチームのイメージであれば自力での出場権獲得という目標も十分期待できる。
【JPNチーム強化活動】
〔取り組み〕
- 3つの国際大会に参加し、各クルーは進歩を見せたものの、東京大会の出場権獲得には至らなかった。アジアレベルでは各種目ともメダルを獲得できた。
- 19年シーズンでは、4-11月で7回23日の合宿、22日の強化練習を積み重ね、過去最大の練習量を確保した。
- 水上練習はUTベースとしながらも、乗艇経験の少なさを補うため無酸素性代謝閾値(AT)レベル、酸素摂取運搬(TP)レベル、無酸素レベルの頻度を昨年度より3割ほど増やした。これは高レート時の技術向上、レース同等レートに対しての苦手意識克服、レースへの心理的準備も狙った。これは思いの外、上手く働き、レースに対する恐怖心減少やレースの戦略的準備に効果が出たと考える。
- 陸上練習はエルゴトレーニングを2回、ウエイトトレーニングを週3回設定した。エルゴはUTを基本とした。ウエイトトレーニングは筋持久系を基本とし、冬季には最大筋力向上も狙った。特に今まではウエイトを個別に実施するように促してきたが、9月にフィジカル強化合宿を実施して以降、複数人で実施する環境ができているため切磋琢磨できるようになった。まだ実際の変化値は測定できていないが、継続して管理していく。
- 個人エルゴベストタイムの変化
種目 2018年
エルゴ ベストスコア2019年
エルゴ スコア前年比 PR1 M 09:19.7 08:49.1 -30.6秒 PR1 W 10:25.1 10:41.4 +16.3秒 PR2 M 07:51.5 08:40.3 +49.2秒 PR3 M 06:51.0 06:46.0 -5.0秒 PR3 W 08:47.2 8.16.2 -31.0秒 PR3 M 07:16.0 07:17.4 +1.4秒 PR3 M 06:59.0 06:58.6 -0.4秒 PR3 W 08:18.9 08:17.8 -1.1秒
※表は2019年度シーズンを協会指定選手として戦った選手のみのスコア
基本、トレーニング進捗はエルゴスコアを指標としているため、上記表を提示する。表に見られるように、大幅にスコアを伸ばした選手が2名、小幅にスコアを伸ばした選手が1名となった。ほぼ横ばいになった選手は3名となった。反面、スコアを大幅に落とした選手が2名出ている。これは怪我をしてしまい定期的なトレーニングができなかった者、トレーニングに集中しきれない者となっており、コンディション管理や個人の練習環境サポートを整備しなければならない事を示唆していると考える。
トレーニングに対して集中できている者はエルゴも順調に伸びているため、フィジカル強化をベースとして再度、水上パフォーマンス向上を狙っていく。
〔課題〕
- 選手層の薄さから日々の競争意識が薄れることが多いため、継続的に競争状態を作る必要がある。
- 遠隔でのトレーニング進捗確認になるため、要対応時(故障、フォーム崩れなど)にオンタイムで対応ができていない。
- 協会の強化活動を今以上に増やすとなるとボランティアベースのスタッフには大きな負担を強いることになるため、専任者(コーチやトレーナー)の増員などを検討する必要がある。
【強化環境の整備と改善】
〔取り組み〕
- パラ競技メインのNTCイーストができたことでフィジカル強化拠点として活用することが出来るようになり、トレーニングの幅が広がった。
- パラ種目においてはサポート人員も重要な強化環境要因である。コーチングやトレーナー活動などにとどまらず、艇の運搬から車イス移乗、視覚障がい者のサポートなども必要となるため、一定数のサポーター確保が必要となる。今年度は、女性トレーナー1名を確保できた。
- 選手所属企業への協力依頼を行い、選手の練習環境改善に努めた。概ね所属企業のご協力を仰ぎやすい環境になっている。派遣依頼文や認定通知など文章のみではなく、定期的に挨拶を実施し選手活動の理解を得られるよう努める。
〔課題〕
- スタッフ人員絶対数は不足しており、引き続きコーチ、トレーナーを増員し、クルー単位でサポートできる体制の早期実現目指す。
- 強化現場での仕事が増加しているため、業務整理し、実践できる人員確保が必要。
【レース機会の創出と国際大会への積極参加】
〔取り組み〕
- 昨シーズンは国内開催レースが1回のみの状況であったが、今シーズンは海外遠征前の短期間に複数回のレース機会を得た。これによって選手の通常練習でも具体的なレースイメージを持って取り組むことができるようになり、国際大会への準備がより具体的なものとなっていった。今後も各レースでパラ種目を正式開催していただけるよう働きかけ、国内でのレース機会増を目指す。
- 海外遠征は3度となり、これはパラローイングとしては初の試みであり、選手スタッフ共に海外遠征の貴重な経験を積み重ね、国際レース対応に柔軟性が出た。今後も国際大会への積極的な参加を進める。
〔課題〕
- 国内大会でパラ種目を設定しても、選手不足のため出場クルー数が足りずレースが行えない事象があるため、国内での普及をより促進する必要あり。
- 海外遠征等を実施する際の財源を一定以上確保しなければ継続性を保てない。新規スポンサーの獲得も重要になるため、助成金に頼り切らない財政確保を委員会としても推し進めていく必要あり。
【医科学分野の活用と継続的サポートの実施】
〔取り組み〕
- 18年度から栄養、心理は強化合宿などのタイミングで実施していたが、今シーズンはより多頻度で実施した。単に知識向上を図るだけではなく、選手個々の個別サポートも行った事で選手のコンディション調整に大きな力となった。さらに今シーズンは初めてフィジカルトレーニングに特化した強化合宿を実施し、選手のフィジカルに対する認識に変化が起きたことは、今後の競技力向上に役立つと予想する。
- トレーナーを海外へ複数派遣を出来るようになったことで、身体的コンディションサポート環境は飛躍的に改善された。
〔課題〕
- トレーナー海外派遣はできたものの、全ての大会において体調不良者・故障者が出てしまった。国内におけるコンディション管理体制を強化し、選手とメディカルスタッフの連携を深め、遠征先での体調不良者が出にくいサポート体制を構築する必要あり。
- 海外遠征に帯同できるトレーナーが限定的であるため、複数のトレーナーを確保することが必要である。さらに女性トレーナーは重要となるため、継続的な確保努力の必要あり。
- 障がい者(特に脊椎損傷や片麻痺)に対応可能な脳神経外科、神経内科系の医師をサポートに組み込むことができると普段から身体状態の相談が行いやすくなる。
≪2020年シーズン強化体制≫
2019年シーズン総括を踏まえ、2019年シーズン強化活動は効果的であったと評価する。2020年シーズンも専任コーチ他、現指導体制の継続を基本とし、更なる拡充を目指す。医科学委員会等他委員会と連携深め、トレーナー並びにメディカルのサポート強化、スタッフ強化を狙う。
パラリンピック東京大会の出場及び好成績を上げることが2020年シーズンの最大の目標であり、4月アジア・オセアニア予選/5月世界最終予選での出場権獲得、本大会で8位以内を目指す。
参考 ≪2020年シーズンスケジュール≫
日程 | 内容 | 場所等 | 備考 |
---|---|---|---|
2019年11月24日 | 2020年度強化指定選手 1次選考締め切り 2020年度 コックス選考 締め切り |
― | 国内選考 |
2019年12月6日~8日 | 12月第一回強化合宿 2020年度強化指定選手 2次選考 2020年度 コックス選考会 |
神奈川県・相模湖漕艇場 | 国内選考 |
2019年12月19日~22日 | 12月第二回強化合宿 | 神奈川県・相模湖漕艇場 | |
2020年1月10日~13日 1月24日~26日 2月6日~8日 2月21日~23日 |
日本代表候補選手選考兼強化合宿 | 神奈川県・相模湖漕艇場 | 国内選考 |
2020年3月~4月 | 選手・スタッフメディカルチェック | 調整中 | パラリンピック本戦参加候補者全員 |
2020年4月27日~30日 | アジア・オセアニア大陸予選 | 韓国・チュンジュ | PR1のみ パラリンピック出場権 1枠 |
2020年5月1日~3日 | ワールドカップⅡ | イタリア・ヴァレーゼ | FISA公認大会 19年7月時点でパラ種目開催あり |
2020年5月8日~10日 | 世界最終予選 | イタリア・ガヴィラーテ | パラリンピック出場権 1 or 2枠 |
2020年5月下旬まで | 開催国枠推薦書をFISAに提出 | ※自力でどの種目もパラリンピック出場権を獲得できていない場合のみ | |
2020年6~8月 | パラリンピック直前合宿 | 調整中 | |
2020年8月28~30日 | 東京パラリンピック ボート競技 | 東京・海の森水上競技場 |
以上