日本ボート協会JARA OFFICE
全国のオアズパーソンへの手紙(第91信)
日本ボート協会会長
大久保 尚武
新型コロナウイルスの感染が猛烈な勢いで世界中へ広がるなかで、東京オリンピック・パラリンピックはどうなるのか、わたしは固唾をのんでIOCの動きを見守っていました。
そして3月24日(火)、安倍晋三総理(及び森喜朗組織委員会会長他の日本側関係者)とトーマス・バッハIOC会長との電話会談で、東京オリンピック・パラリンピックの延期が決まりました。「中止はない。遅くとも2021年夏までに実施する」という大きな方針が決まったわけです。
次いで6日後の3月30日(月)、IOCは東京五輪の開催日程を2021年7月23日(金)~8月8日(日)にすると発表しました。(パラリンピックは8月24日(火)~9月5日(日))このスピーディーな日程決定は非常に良かったと思います。
次はFISAの動きです。延期になった東京オリンピック・パラリンピックの出場国枠の決定はどうするのかについてです。
FISAが3月27日にIOC、IPCからそれぞれ受け取った情報によると、既にオリンピック・パラリンピックの出場資格を獲得している選手/NOCに対してはこの資格を維持することを再確認する、ということで、残る出場資格の枠の獲得方法については、IOC、IPC共に各IFと緊密に協議を重ねて取り進めていくようです。まだ実施されていない「アジア・オセアニア大陸予選」と「世界最終予選」をいつ開催するのかという点が一番気になるところです。
おそらくFISAはここ1~2週間のうちに方針を決定するだろうと思います。それが決まってはじめて、再出発ということになるわけです。(もっともローランド会長以下FISAのスタッフも新型コロナ騒動で外出できず、電話会議で打ち合わせをしているそうです)早期の決定が待たれます。
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さて、そうしたなかで日本はどうしているのかです。まだ出場枠を取っていない日本としては、アジア・オセアニア大陸予選が当面の目標でした。4月に韓国で開催予定が中止となり、いったんは5月にスイスで開催ということに変更されました。
ところが3月14日(土)にFISAから連絡が入り、5月スイスでの予選も中止ということになりました。新型コロナの蔓延で、地球上安全に予選レースを開ける国がなくなったのでしょう。そこで決めるべき出場国枠獲得方法をどうするかは全く未定のまま、予選中止だけを決めたのです。
目の前の目標がなくなったなかで、それでは日本代表選考レースはどうするのか、やるべきなのか中止すべきなのか、強化委員会を中心に検討をかさねた結果、「どのような事態になっても対応できるよう候補選考レースまではやっておこう」と決めたのです。そして3月20日(金)~22日(日)、戸田で「日本代表候補選考レース」を行い、軽量級シングルスカルの男女各4名を代表候補に決定しました。またオープン男女シングルスカル及び男女ペアは代表候補とはせず、順位付けのみを記録として残し、これらのランキングを今後FISAから発表される新たな情報に基づく選手選考の基礎とすることとしました。
さらにその後、3月28日(土)~30日(月)熊本県斑蛇口湖で予定していた「日本代表クルー決定トライアルレース」とその事前合宿は東京オリンピック延期の知らせと世界中で新型コロナウイルスの蔓延が激しくなる状況を鑑み、中止となりました。以上が現時点で日本が置かれている状況です。
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近代オリンピック史上初めての「1年延期」という決定に至るまでの内外の動きをザッと見てきました。敵が「新型コロナウイルス」の蔓延という、今後どう展開していくのか誰にもわからない相手だけに、予定がクルクル変わるのもやむをえない、というのが大方の受け止め方かと思います。
わたしがいちばん心配しているのは、選手たちの心情です。アジア・オセアニア大陸予選が中止と決まった時は、それを第一の目標に強化してきた選手たちにとって、ほんとうに強い衝撃だったろうと思います。それに続いてオリンピック・パラリンピックの1年延期です。
1年間という時間が体力面で、技術面で、そして精神的なやる気の面で、はたしてプラスになるのかマイナスになるのか。本人たちもいろいろ考えるでしょうし、強化スタッフそしてコーチ陣も必死でどう対処すべきか、心をくだいていることでしょう。
わたしは長いボート人生のなかで、これほどの大事にぶつかったことはありません。敢えていえば(個人的な小さな経験ですが)1960年、オリンピック予選の5月8日を前に、1月20日に荒川で練習中、笹目橋の上流で杭に乗り上げてシエルフォア艇を使いものにならなくしてしまい、他にシエルフォア艇を持っていなかったので新艇が出来てくるまでの40日間、ナックルフォアで練習せざるをえなくなった時のことを思い出します。
「もう駄目だ」と瞬間思いましたが、クルー5人で話し合い、「こうなったら日本一強いナックルフォアを作ろう」と覚悟を決めました。この「覚悟」が5月のオリンピック予選での勝利につながったのだと、今でも信じています。
選手諸君に偉そうに説教するつもりはありません。ただ、わたしにとってこの時の覚悟が「禍を転じて福となす」契機となり、その後の人生のさまざまな局面で、障壁を乗り越える勇気を与えてくれた源だと思っています。
皆さんが今回の難局に新しい覚悟をもって立ち向かってくれることを期待します。
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4月12日(日)の隅田川での早慶戦は中止と決まったようですし、4月から5月にかけての戸田コースでの各校対校戦もほとんどがキャンセルのようですね。伝統が途切れるような気がしてなんとも残念なことです。
日本ボート協会主催のレースでも、5月23日(土)~24日(日)に石川県津幡で開催されるマスターズがどうなるか。楽しみにしているマスターズ諸氏の顔を思い浮かべると、気になるところです。
(以上)