日本ボート協会JARA OFFICE
全国のオアズパーソンへの手紙(第83信)
日本ボート協会会長
大久保 尚武
待望の「海の森水上競技場」がついに完成です。6月16日(日)東京都主催の「完成披露式典」の後、日本ボート協会主催で「海の森水上競技場完成記念レガッタ」を開催しました。雨の天気予報が嘘のように朝から快晴、新しいボートコースはゴール側には真っ白なゲートブリッジ、そしてスタート側はるか遠くに富士山が見える、じつに雄大な景観です。
歴史的記念レガッタということで、オックスフォード大、ケンブリッジ大OBクルーを招待しました。そのせいもあってか、当日はなんと4,250人の観客・選手で大賑わいです。羽田空港の付近では風速10m/秒を超える強風のコンディションでしたが、小学生から85歳のマスターズまで、またパラローイングの選手たちもしっかり漕いでくれました。U19の日本代表選手達の力強い漕ぎぶりも印象的でしたし、男子エイトではNTT東日本クルーが5分37秒96(参考記録)で漕ぎ、強い順風とはいえ、ついに40秒をこの新コースの最初のレースで切ってくれました。
レガッタは刈屋富士雄さん(早大漕艇部OB、NHK解説主幹)というプロ中のプロの実況放送で、大いに盛り上がりました。皆さんは、プログラムに載った刈屋さんの挨拶文『日本ボート界、新たなる夢の始まり』を読んでくれたでしょうか。わたしはこの文章に心から感動し、激励されました。いくつかのフレーズを引用しておきましょう。
『「海の森水上競技場」の完成は、日本ボート界の新たな文化創生のための千載一遇にして最後のチャンスです』
『今回の記念レガッタを、ボート選手なら誰もが出たくなるような、ほかの競技の選手もボートを始めたくなるような、一般の人も毎年見たくなるようなイベントに育てていけば、ボートに触れ合う人口は増え、競技力も上がるはずです』
『プロスポーツ全盛の時代、ボートのこれ以上の発展は難しいと批判されるかもしれませんが、むしろ逆です。今だからこそボートの価値は広く理解される可能性があると思います。』
ぜひ皆さんに全文を読んでほしいと思います。
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このボートコースの魅力のひとつである「海の森」について、ちょっと説明しておきます。
東京都はこの二つの人工島を、巨大な森林公園にしようと考えています。10年程前の石原慎太郎都知事時代に、わたしは頼まれて安藤忠雄さん(建築家)と一緒に「海の森」づくりの為の募金委員長を務めました。8億円ほどの寄付金を集め、苗木を育て、小・中学生や企業のボランティアに植林してもらったのです。10年たった今では、10メートルを超える高木もたくさん育ち、だんだん本格的な森らしくなってきました。南側の島はまだ地熱が高くて植林できませんが、二つの島の森が完成すると、東京都内では皇居の森を抜いて、一番広い森林公園になるのです。
世界で一番都心に近い、ウォーターフロントに造られた、大きな「海の森」にすっぽり包まれたボートコース。刈屋さんの言うように、ここを拠点に「日本ボート界の新たな文化」を作らなければなりません。
そのためには、わたしはこのコースを格式ばらない、新しい感覚の開かれた水上競技場にしたいと思っています。漕ぐ選手にとっても、一般の観客にとっても、明るく、楽しく、オープンなボートコースにしたい、若い人達の新鮮な感覚、アイディアで新しいボート文化を創り出してほしいと思います。
考えると、いろんなイベントも企画できそうです。皆で知恵を出しあいましょう。
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2019年度(令和元年度)の定時社員総会が6月22日(土)に開かれました。
議決すべき議案は2018年度の決算など6つでしたが、いずれも5月20日(日)の定例理事会で審議されたもので、その主なものについては先月のこの欄で紹介しましたので、今回は省略します。
報告事項も6件ありましたが、その中で「2019年度(令和元年度)の事業計画、並びに予算案」についてご紹介しておきましょう。
今年は大きな事業が3つ計画されています。
- 「海の森水上競技場完成レガッタ」(6月)
- 「2019世界ボートジュニア選手権大会」(8月)
- 「2020東京オリンピック・パラリンピックの出場権獲得」(9月)
「海の森水上競技場完成記念レガッタ」は上記のとおり無事成功裏に終了しましたが、あとの2つも絶対に成功させなければなりません。
そして、その裏付けとなる予算についてですが、今年はついに大台を突破して10億7百万円(支出予算)となりました。「世界ボートジュニア選手権」の予算が5億3千万円かかるせいですが、通常予算でも4億7700万円と過去最高となります。
オリンピック・パラリンピックが終ると当然、国等からの支援金は減るわけで、持続可能な財務体制をどう作っていくか、財務問題は今後の重要検討課題と言わねばなりません。
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6月24・25日に岩手県花巻市で「第32回全国ボート場所在市町村協議会 首長会議(ボートサミット)」が開かれました。この協議会のことはこれまで何度も話しているので、あらためて紹介の必要はないでしょう。ボート場という共通の財産を持つ市町村(現在加盟市町村32)が集まり、毎年首長会議(ボートサミット)と交流レガッタ(今年は9月28,29日に大分県日田市)を開催しており、現在会長は岐阜県海津市の松永清彦市長が務めておられます。
日本ボート協会としては、地域に密着したボートの普及・振興にとってもっとも重要な組織だと考え、わたしは毎年必ず出席し、みなさんと話し合うのを楽しみにしています。
今年の会議はまず昨年11月に亡くなられた鎧塚一さんに黙祷を捧げることから始まりました。この協議会はまさに鎧塚さんが創り育ててきたもので、皆で心から鎧塚さんのご冥福をお祈りしました。
どの市町村もボートを「まち興し」につなげたいと考えているのは共通しています。参加者名簿を見ながら「どんな部署が担当しているのかな」と見てみました。地元の花巻市は「生涯学習部スポーツ振興課」で、このような部署名をつけている市町村が一番多いようです。「生涯学習」という名称を入れている市町村が普通になってきて「そういう時代になってきたんだなぁ」と思いました。ちょっとユニークな名称としては「ボートのまち推進係」(福島県喜多方市)、「教育こども課」(長野県下諏訪町)、「美浜創生戦略課」(福井県美浜町)などが目につきました。
ボートは「生涯スポーツ」として最適のスポーツだと思います。今年の「全日本マスターズレガッタ」(この会の会員である大阪府高石市で6月に開催)には、なんと1,300人以上のOB、OGたちが集まり、80歳以上のクルーも毎年確実に増えてきています。
「どうしてだろう、座って漕ぐスポーツだからだろうか」などと話していますが、他の競技に比べて高齢者はダントツに多いようで、いずれにしろ「生涯スポーツ」にふさわしい現象です。
「まち興し」とボートを結びつけるためには、大事なことが二つあると思います。ひとつは「市民レガッタをどう活性化するか」です。漕ぐ人たちだけでなく一般の見に来る人達も楽しめるような工夫をこらす必要があり、例えば「エルゴメーターレース」を併設すれば、誰でもが参加でき、人気を呼ぶのではないでしょうか。
もうひとつは「クラブ組織づくり」です。滋賀県の「瀬田ローイングクラブ」は最高のモデルですが、子供の数が減って学校単位での部活動が難しくなってくるなかで、誰もがボートを漕げる環境をつくってあげることが肝要です。「生涯スポーツ」として80歳のマスターズから中学生までが加入できるクラブの存在がキーファクターになると考えています。
今回の「ボートサミット」では花巻市の上田東一市長をはじめ、市の皆さんが大歓待してくれました。例年通り、初日の夜の交流会では各市町村の「お国自慢」で大盛り上がりです。2日目は田瀬湖ボート場の視察です。岩手県ボート協会の谷村邦久会長の話でも、市はボート場施設の充実などにたいへん注力してくれているということで、たしかに艇庫も合宿所も立派なものです。ちょうど日本代表クルーが、世界選手権に向けて合宿中で、練習を終えてあがってきた選手たちは、32市町村の幹部の皆さんの激励を受けて大感激でした。
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6月29・30日、北海道石狩市の第47回朝日茨戸レガッタに行ってきました。残念なことに大変な強風に見舞われ、初日は半分でレース打ち切り、2日目はなんと全面中止のやむなきに至りました。楽しみにしていた年に一度のレースが中止となり、選手諸君はほんとうに気の毒でした。しかし、この風と波を目の前にしては、主催者の苦汁の決断はみんなの理解を得ていたと思います。
朝日茨戸レガッタの夜の歓迎レセプションは毎年じつに楽しいのですが、今年もいい会でした。北海道のボート仲間との再会はもちろんですが、このレガッタには道外のアチコチから(京都、静岡、新潟、東京、神奈川等々)クルーが参加し、彼らとも「ヤァヤァ」ということになります。今年は同志社大学が招待されており(近年の同大学の活躍ぶりは目を見張るものがあります)、旧知の武田知也監督とも貴重な話ができました。また北海道初のパラローイング選手、永瀬充さんにも初めて会い、心強い話を聴けました。永瀬さんは末梢神経の障害で車椅子の生活ですが、元パラアイスホッケー日本代表選手(なんと2010バンクーバーの銀メダリスト)で、最近ボートが自分に向いていると考え、転向してくれたのです。「箸をにぎるのは苦手だが、オールは大丈夫です。北海道にパラローイングを広めます」と言ってくれて、しっかり握手してきました。
朝日新聞社の嶋名隆さん(北海道支社長)とは、ボート以外の北海道の話でも話題が尽きませんでした。
石狩市の新市長加藤龍幸さんは、「今日が市長就任3日目です」という超多忙のなか、わざわざ茨戸川まで来てくださいました。30分程いろいろお話ができ、そのご好意にはほんとうに感激しました。東乙比古さん(北海道ボート協会会長)、中川信治さん(札幌市ボート協会会長)、藤木一夫さん(石狩ボート協会会長)他の皆さんと一緒でした。
(以上)