日本ボート協会JARA OFFICE
全国のオアズパーソンへの手紙(第73信)
日本ボート協会会長
大久保 尚武
インドネシアで開かれた「第18回アジア競技大会」に行ってきました。決勝戦が行われた8月23日(木)24日(金)の2日間だけの短い滞在でしたが、アジアのボートについて、またその中での日本ボートについて、いろいろ考えさせられました。今回はそのことを中心に書くことにします。
- 日本からは、今回は8種目(15種目中)にクルーを派遣しました(前回、2014年の韓国・忠州での大会には軽量級の3種目だけの派遣で、各国からひんしゅくを買いました)。オープンクラスの6種目(男女の1x、2x、2-)がアジアでどの程度力を発揮してくれるか、また軽量級の2種目(男女の2x)はU-23の選手なので、これもシニア相手にどう戦ってくれるか、このあたりがわたしの強い関心事でした。
レース結果は金メダル1つ(LM2x)、銅メダル2つ(M1x、M2-)で、女子の4クルーは全て4位に終わりました。LM2xの金メダルは、スタートからトップを走る完勝でした。軽量級のオリンピック種目でもあり、最も力を入れて強化を続けてきた種目だけに、ホッとしました。
一方オープンクラスでは、M2-の最後200メートルでの追い上げは見事でした。ただ銅メダル2つは、「もう少し上にいけるか」と期待していたのですが、現実はそう甘くないということです。「日本のオープンクラスの強化はまだ始まったばかり、現実をしっかり認識し、正しい練習を続けるのみ」とわたし自身再確認しました。
また、女子の4クルーが全て4位どまりだったというのは、やはり厳しい国際レースの経験不足も一因だと思います。それと、まだ潜在能力をフルに発揮できていないと感じられるところもあり、これも今後正しい練習あるのみです。
レース終了後、そんなわたしの思いを選手諸君に話しておきました。目標はまずは来年の世界選手権でオリンピック出場権を獲得することです。健闘を祈ります。 - 今大会は全部で15種目(オープン8種目、軽量級7種目)が戦われました。中国の強さがずば抜けていて、10種目に参戦して、なんと金9つ、銀1つです。
あとは日本を含めた6~7カ国がはるかに遅れて横一線に並んでいるという状況です。
金メダルの獲得数を国別に下記します。
(オープン8種目)中国6、インド1(M4x)、ウズベキスタン1(M2x)
(軽量級7種目) 中国3、日本1(LM2x)、韓国1(LM1x)、ベトナム1(LW4x)、インドネシア1(LM8x)
残念ながら、日本が中国に次いで第2位という感じではありません。ヨーロッパの有名コーチを招聘している国も多く、漕ぎ方も各国ほとんど似ていますし、後半に強くなったのも日本だけではありません。
どうやってあと一歩抜け出すか、日本ボート協会として重要な考えどころです。 - 中国選手は身体もいいし(190センチクラスがだいぶいる)鍛え方も相当ハイレベルだと見ました。聞くところでは、約40名ほどのナショナルチームを徹底した英才教育で育てているようです。さらに驚いたことに何人かのヨーロッパの有名コーチに加えて、この4月から例のイギリスの超有名人、レッドグレイブ氏を招聘したそうです。一流好みですね。
しかし日本は中国とは国柄も考え方も全く違います。真似する気はサラサラありません。選手諸君の何人かと話しましたが、「ギザビエ方針は信頼しています」と断言する選手が多く、安心しました。今のトレーニングを着実に続けていけば、必ず結果につながる、そうわたしは信じています。
まずは当たり前の話ですが、一人ひとりの力(「スピリット、フィジカル、テクニック」)を上げる。その上でクルーとして最大の力を発揮できるよう「クルースピリット」を高める。それしかありません。頑張りましょう。 - 23日(木)には鈴木大地スポーツ庁長官、山下泰裕選手団長、斉藤泰雄JOC副会長などのお歴々が観戦に来られました。皆さんボートレースを観るのは初めてのようで、いろいろご説明しながら観てもらいました。金メダルのレースでなかったのは残念でしたが、2つの銅メダルのレースを観てもらえたので、まあ良かったと思います。
またFISAのローランド会長も来ておられたので、「来年6月の『海の森水上競技場オープンセレモニー』にご出席いただけるとのこと、ありがとうございます」と厚くお礼申し上げておきました。
アジア各国のボート界トップも勢揃いです。4年間ARF(アジアボート連盟)会長を務めたワン・シー氏(中国)が辞められるので、ご尽力に感謝申し上げました。氏は毎年5月の「戸田マスターズ」に自ら漕手として参加する程のボート大好き人間で、ARFの充実に貢献した名会長だったと思います。
24日(金)の午後にはARF総会が開かれ、新会長にタイのChainarong Charoenruk(チャイナロン・ジャルーンラック)氏が選ばれました。わたしもご挨拶しましたが、小柄でもの静かな方で、海軍将官とのことです。ボート小国なだけに、中国の会長の後任を務めるのは大変でしょうが、日本としても支えていきたいと思います。 - ボート会場は、ジャワ島の隣のスマトラ島第2の都市、パレンバンという街にあります。そう大きくない湖のスタート部分とゴール部分をそれぞれ数百メートル掘削して広げて造った、半人工コースです。ここで昨秋「アジアジュニア」を開催したのですが、その時はスタート部分の掘削が未完成で、2,000メートルには足りないコースだったそうです。本部棟も艇庫も急ごしらえの少々雑な造りですが、日本の「海の森」と比べると、観客席は約3倍、艇庫も2倍はありそうな立派なものです。
アジア各国のボート施設を見るにつけ、「日本のお役所はどうしてあんな縮こまった発想になるのだろう」と、不思議で残念な気持ちになります。
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8月8日(水)~12日(日)、チェコ・ラシスで「世界ボートジュニア選手権」が開かれ、日本からは5クルー(男女の1x、男女の2x、女子の4x)を派遣しました。成績の詳細はホームページでご覧いただくとして、ポイントだけ申し上げると、女子の2xがB決勝2位(総合8位/21クルー中)と大健闘しました。ただ他はD決勝どまりで、思ったような結果は残せなかったようです。
いよいよ来年は日本での開催です。ジュニアの選手並びに指導者の皆さんは、一丸となって「日本大会」に備えてください。今回の女子2xの成果はすばらしい「成功モデル」といっていいと思います。ぜひこの強化プロセスをしっかり研究し、残る1年の練習にしっかり活かしてください。
さて、来年8月の「世界ボートジュニア選手権」日本開催に向けて今回は調査団を派遣しました。「2020特別委員会」の細淵雅邦委員長を中心に、協会事務局長の相浦信行理事、組織委員会の中島大祐ボート担当マネージャー他数名のメンバーで詳細な調査を行ってきてくれました。
「オープニングセレモニーの様子、食事のレベル、ボランティアの体制等々、実際の活動ぶりをしっかり見てきました。チェコの組織委員会、またFISAの方からも、ていねいに準備の進め方を含め教えてもらい、大助かりです。マニュアルだけでは分からないニュアンスをしっかりつかめた気がします」ということでした。
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8月1日(水)駐日オーストラリア大使のリチャード・コート氏が訪ねてこられました。来年の「オーストラリアマスターズ選手権」に日本からぜひ参加してほしい。との勧誘です。
大会の概要は次の通りです。
1.大会名 | 「2019オーストラリアマスターズ選手権大会」 |
2.開催地 | 西オーストラリア州の首都であるパース近郊に所在する「チャンピオンレイクス レガッタセンター」(パース中心部から車で約40分の距離) |
3.大会期間 | 2019年5月22日(水)~25日(土) |
コート大使は長年西オーストラリア州の首相を務められ、その後西オーストラリアのオリンピックチームに係る公的民間組織の要職を歴任されたスポーツ愛好家でもあるとのことです。
2015年、島根県「さくらおろち湖」での全日本マスターズ選手権大会に、メルボルン大学OBが多数参加したこともご存知でした。それにしても大使自らがボート大会への参加要請に来られるとはいささか驚きましたが、「なんとか参加するクルーが出るよう、広く勧誘しましょう」とお約束しました。
シドニー、メルボルンに行かれた方は多いでしょうが、パースの方はあまりなじみがないのでは、と思います。「ユニークな観光地もたくさんありますよ」とコート大使もおっしゃっていましたし、ぜひ来年の予定に検討してみてください。
以上