公益社団法人日本ボート協会

Japan Rowing Association

日本ボート協会JARA

全国のオアズパーソンへの手紙(第64信)

2017年12月1日
日本ボート協会会長
大久保 尚武
会長写真

11月12日(日)全日本新人選手権大会を観戦に、戸田コースに行ってきました。いま「全日本」と名のつく大会は全部で9つありますが、この「新人戦」が年内最後の大会です。257クルー、615名の参戦で、男子4種目(1x、2x、4+、8+)女子3種目(1×、2×、4x+)で熱戦が繰り広げられ、なかなか見応えがありました。

選手諸君はご苦労さまでした。プログラムで歴代の優勝者を見ると、その後日本代表選手・オリンピック選手になった人もたくさんいます。このレース経験をひとつのステップにして、次なる大きな目標を立てて、練習に取り組んでください。大いに期待しています。

さて、今回が第58回と長い歴史をもった大会ですが、わたしは恥ずかしながらその歴史を良くは知りませんでした。幸い、今回のプログラムに日本ボート協会顧問の畑弘恭さんが、『全日本新人選手権レガッタの変遷を追って』と題して詳細な歴史を書いてくださっています。ぜひ読まれることをお薦めします。

いろいろ前史はあったようですが、第1回大会は、1960(昭和35)年に開催されています。やはり直接的には1964年東京オリンピック開催が決まり、有力新人の発掘・強化が狙いだったのですね。

ところで、この大会での「新人」とはどこまでをいうのか、もちろん規則で詳細に決まっていますが、大まかに言うと「22歳以下で、大学生だと2年生まで、一般団体だと高校卒業後3年以内」ということです。もちろん高校生はたくさん参加していますし、今回は14歳の中学生(Itako Rowing Academy)が3人もいました。

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「若い身体能力の高い、意志力の強い」選手を見つけ出す、いわゆる「タレント発掘」がボートで勝つための第一歩であることは言うまでもありません。特にボートのように小・中学校で経験することの難しい競技の場合は、「他競技からの転換」が極めて有効であり、大切です。今年もそのいい例が2つありました。一人は9月の全日本大学選手権の男子シングルスカルで優勝した櫻間達也選手(同志社大)で高校時代は陸上中距離(1500m)の選手、もう一人は今回の全日本新人選手権の女子シングルスカルで優勝の矢吹美緒選手(東北大)で高校ではバレーボール選手で身長178cmの長身です。2人とも11月25日(土)の「Head of ARA」でも好タイムで漕ぎ切り、見事、次の強化合宿に参加する選手に選ばれました。

日本ボート協会では、2014年に組織として「タレント発掘委員会」を新設し、タレント発掘活動に力を注いできました。『2020東京オリンピックでメダル獲得を目指すボート競技選手を募集』として、全国各地の拠点で毎月「トライアウト(ワットバイク=自転車エルゴによる選抜テスト)」を行っています。今は各地のエルゴ大会では必ず「トライアウト」を併設して、希望者に挑戦してもらうようにしています。

主な狙い目は、競技性の高いボート競技未経験の方にボート競技と出会わせ、競技転換してもらおうというものです。こうして育ってきた中・高の有力選手もだいぶ増えてきました。

次に大事なのは発掘した優れた素質を持つ選手を、強い選手にどう育てるか、そのための体制・仕組みです。幸いなことに、近年国(スポーツ庁)、日本スポーツ振興センター(JSC)、日本オリンピック委員会(JOC)、日本体育協会などが、それぞれ「タレント発掘・育成」のための支援制度を充実してきています。当協会としては、この支援制度をフルに活用すべく努めており、現在大きく分けて3つの強化・育成活動を行っています。簡単に紹介しておきましょう。

1つ目は「JSC助成による育成事業」です。「トライアウト」等で認定選手として選抜した30名(メダルポテンシャルアスリート、育成選手、タレント育成選手など)を対象に今年は6回の海外遠征・合宿(ドイツ、フランス、デンマーク、オランダ、香港)と国内での29回の育成合宿を行いました。

2つ目は「JOCエリートアカデミー」への2選手の参加です。これは、JOCが主催し、いろいろの競技の有力若手(中学1年~高校3年)選手を「ナショナルトレーニングセンター」で共同生活をさせ、お互い刺激を与え合いながらしかも専属の指導者(ボートは星遼コーチ)の下で育成しようとするものです。JOCが9年前から始めた事業ですが、今年からボートでも初めて2人が参加し、来年もさらに数名の中学3年生を参加させる予定です(卓球の平野美宇選手などが有名です)。

3つ目が「ジャパン・ライジング・スター プロジェクト」です。日本体育協会とJSCが主催するプロジェクトで、3段階の選考テストを経てボートでは5人(男子2人、女子3人)の14~17歳の選手が選ばれ、「育成拠点県」に認定された埼玉県で今後育成合宿を重ねていきます。

以上、「タレント発掘委員会」として極めて活発に活動をしていて、今後の成果に大いに期待するところですのでみなさんも注目して見ていてください。

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当協会のホームページに『Mama Athletes Network(MAN)第4回ワークショップに参加して』という報告が載っています。たいへん長文の報告ですが興味深い内容なのでぜひ読むことをお薦めします。加藤直美さん(理事、アスリート委員長)と浜田美咲さん(指導者育成委員会スタッフ、戸田中央病院ローイングクラブ)のお2人が参加しての報告です。スポーツ庁の委託を受けて、JSC(日本スポーツ振興センター)とJISS(国立スポーツ科学センター)が主催するワークショップ(研究集会)ということです。

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主題は「子供ができてママになった女性アスリートの現状と今後考慮すべきこと」といった内容です。リオデジャネイロ五輪に参加した日本のママアスリートは、5人だそうです。今後の女子ボートの強化を考えた時、やはり考えておくべき重要なテーマだと思います。他の競技の中には、対策を講じ始めたところもあるようです。

実は参加した浜田(旧姓熊倉)さんは、ご自身ママアスリートなのです。2011年に一度完全に現役を引退して出産したのですが、子供が1歳になった昨年7月、復帰を決意したそうです。「職場、チーム、家族の理解にはほんとうに感謝している」と言い、「育児と仕事を続けながらトレーニング」することは大変だけれど「レースで結果をぜひ残したい」との決意も語っています。

考えさせられるレポートでした。

以上