日本ボート協会JARA
全国のオアズパーソンへの手紙(第50信)
日本ボート協会会長
大久保 尚武
この10月から日本ボート協会の強化体制を変えます。
ギザビエ氏(Xavier DORFMAN)を「日本ボート総監督」(仮称)に据えます。ギザビエ氏は、もちろんナショナル・チームの総監督兼シニアコーチを務めますが、「ナショナル・チームだけを強くしようとしても、それだけではダメだ。日本ボート界全体の意識改革と変革が必要だ」という意見で、直接各団体の指導者、選手にも会い、「強いメッセージ」を送ることを強く望んでいます。あえて「日本ボート総監督」とした理由です。
こうした決定に至った経緯と背景を、まず率直にお話しておきます。
世界選手権とFISA総会のために行っていたオランダ・ロッテルダムで崎山強化委員長から「強化体制を思いきって変えたいのだが…」と相談がありました。ざっと聞いたところ、上記のような重要な内容なので「日本に帰って皆とよく相談しよう」として、すぐに日本の木村理事長に「強化体制変更について多方面の意見を聴きたいので、強化諮問会議を開いてほしい」と電話しました。帰国後、大林ヘッドコーチの意見もじっくり聴いた上で、9月20日(火)強化諮問会議を開きました。木村理事長を議長にメンバーは、崎山、大林両君の他、総合的な強化方針の観点で清水強化本部長、鈴木(壮)強化アドバイザー、他の競技団体との比較などの面で平岡理事(JOC専務理事)、選手の立場で考える意味で加藤アスリート委員長、強化費の面から宮武財務委員長、そして鈴木(仁)理事、相浦事務局長、大隅監事にも入ってもらい、わたしを含めて全12名です。
3時間近く意見をぶつけ合いましたが、結論は
「現状を打破し、念願のメダルを目指すためにも強化委員会案を全面的に支持しよう。ただ、トップに立つギザビエ氏には想定以上の難題・ストレスが数多くかかるに違いないので、彼をバックアップし、サポートする体制をより強化すべきだ」
ということに落ち着き、9月30日(金)の定例理事会で「強化体制の変更」と「2020年に向けた強化方針」が決議されたのです。
経緯は以上の通りですが、背景にはコーチ陣・選手諸君はもちろん、強化に携わる人達全員の胸中に
「日本は、世界の流れに取り残されているのではないか。今のまま続けていては、軽量級でも世界との差が縮まりそうもない」
という強い思いと不安がありました。突破口を捜しあぐねていたところに、昨年12月ギザビエ氏がコーチ陣に加わり、その斬新なトレーニング理論と、頑固なまでに強いスピリットに選手はもちろん、コーチ陣も強いインパクトを受けたのです。
そして「彼ならこの殻を破ってくれるかもしれない」という確信がこの新体制案となったのです。
ここでXavier DORFMAN氏のプロフィールを紹介しておきましょう。
1973年生まれ、43歳のフランス人です。少年時代からボートに親しみ、1992年(19歳)に軽量級の選手としてフランス・ナショナルチームに入りました。オリンピックには軽量級男子舵手なしフォア(LM4-)クルーとして2回出場し、アトランタ(1996年)で7位、シドニー(2000年)では、見事金メダリストになっています。
なお、FISA会長のローランド氏とはボート仲間で、彼もシドニーの男子舵手なしペア(M2-)の金メダリストです。
2001年以降はエギュベレットのローイングクラブの指導者として若手育成に努めてきたようです。
彼のボート思想の根幹には、ずっとナショナルチームで指導を受けてきたムントコーチ(東ドイツ人)の考え方、実践内容があるようです。ムント氏は、フランスボート界がどん底にあった1991年、フランスボート協会が東ドイツから招聘した名コーチです。彼は十数年に亘ってフランスボート界を指導し、単に個々のクルーの指導にとどまらず、ボート界全体の改革に積極的に関わってきました。
フランスをボート強豪国に変革させたムント氏の影響は今でも、特に軽量級に残っているようで、今年のリオ五輪でもフランスは、軽量級男子ダブルスカル(LM2x)で金メダル、軽量級男子舵手なしフォア(LM4-)で銅メダルというすばらしい成績を残しています。
「日本でボートコーチができないか」というのは、ギザビエさんの方から発信された提言でした。2015年、フランス・エギュベレットでの世界選手権の際に大会役員として働いていたギザビエさんが、初めて崎山強化委員長に接触してきたのです。「日本が軽量級に注力していることに関心があり、わたしが手助けできることがあるように思う。また、わが家は妻を筆頭にみな日本人が大好きだ」ということだったようです。
ちなみに、奥さんも有名なボート選手で、2005年の長良川での世界選手権で軽量級女子シングルスカル(LW1x)の銀メダリストになっています。日本好きになったのはこれが発端かもしれません。長女(14歳)、長男(12歳)との4人家族で、この8月には家族全員で来日し、板橋に居をかまえました。
9月23日(金)の夜、全日本大学選手権の際に、第1回の「ギザビエコーチとの討論会」が戸田で開かれました。30人以上の各団体コーチ陣と、3時間近く活発な討論が行われたようです。今後、10月の国体、11月の全日本の際にも同様の討論会を開きますのでぜひ参加し、ギザビエさんと、「国際的なボート強国に日本を生まれ変えるには」という目標に向って討論していただきたいと思います。
最後になりましたが、ギザビエさんは、よく「スピリット」という言葉を口にするそうです。わたしには、どういう意味なのか正確には分かりませんが、「試合にも練習にも気迫を持って取り組め」という意味かと思います。いずれにしろ精神面を大事にしているようで、「昔ながらのオアズマンシップがボート生活の基本だ」ともおっしゃるそうです。これもわたしなりに先輩から教えられてきたのは、「健全でバランスのとれた生活態度、クルー仲間との良い意味での競争意識と、同時に相手の立場を思いやる優しい心遣い、常に謙虚で紳士的な生きる姿勢」といった意味かと思います。一度ギザビエさんに真意を聞いてみようかと思っています。
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今年の全日本大学選手権大会並びにオックスフォード盾レガッタは、オリンピックイヤーということで例年とは異なり9月22日から4日間戸田コースで開催されました。387クルー1,421名の選手が参加し、各校の応援団も多く、戸田がもっとも賑わう大会です。予選の3日間は雨つづきで選手がかわいそうでしたが、決勝の日曜日は太陽も顔を出し、やや逆風ながら好コンディションに恵まれ、好レースが続きました。
レース結果の詳細は、ホームページをご覧下さい。
全般的には、男女とも伝統校が強いなという印象で、女子では4種目中3種目を早稲田、男子では8種目中4種目を日本大学が制し、それぞれ団体優勝にも輝きました。
そうした中で、男子ダブルスカル(M2x)で富山国際大学が、日本大学、明治大学を押さえて優勝したのは快挙でした。また男女のシングルスカルで、20歳の古米峻知選手(日本大学)、18歳の高島美晴選手(明治大学)という若手2人が圧勝したことは、今後、2020TOKYOにつながる選手の活躍として期待されるレース結果でした。
オックスフォード盾には、イギリス・オックスフォード大学のセントキャサリンカレッジのクルーが参戦しましたが、残念ながら準決勝敗退で、決勝には残れませんでした。優勝は、苦境から見事立ち直ったNTT東日本でした。
観覧席には、Xavier DORFMAN一家が4人で来ていました。お嬢さんは、フランスでちょっとボートを漕いでいたそうです。
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第25回全国市町村交流レガッタは、9月17、18日の両日、戸田コースで開催されました。今年10月1日が、戸田市の市制施行50周年にあたるということで、そのお祝いも兼ねて、戸田での開催になったわけです。
このレガッタの競争種目はかなりユニークです。成年男子(21クルー)壮年男子(18クルー)熟年男子(20クルー)成年女子(9クルー)壮年女子(19クルー)熟年女子(17クルー)そして議会議員(18クルー)議会議員シニア(6クルー)と、全部で128クルーの参加です。議員先生方も全クルーお揃いのユニフォームで頑張ります。今年は熟年女子クルー参加が増えたそうで関係者は喜んでいました。
17日(土)夜の歓迎レセプションは、戸田競艇組合のイベントホールで行われ例年通り大盛況でしたが、今年は特に、50周年を迎えた戸田市が多彩なショーを披露してくれて、皆大いに楽しんでいました。
以上