日本ボート協会JARA
全国のオアズパーソンへの手紙(第49信)
日本ボート協会会長
大久保 尚武
オランダ・ロッテルダムで3つの世界選手権(シニアの非オリンピック種目、U-23、U-19)が8月21日~28日の8日間、同時に開催されました。2,000人近い選手による、おそらく史上最大規模のレガッタだったのではないでしょうか。日本からも、シニア4人、U-23 12人、U19 13人の合計29人が参戦しました。
リオ・オリンピックが終わり、この3つの世界選手権も終わって、今年の日本ナショナルクルーの世界での活動はほぼ終了しました。その総括は、強化委員会が中心になって現在多面的な観点で行っているところなので、それを待ちましょう。
一方、国内のレガッタは、むしろこれからが本番で、9月の全日本大学選手権(戸田)、10月の国体(岩手県田瀬湖)、11月の全日本選手権(戸田)と続きます。各団体は、例年とは別の対応で大変でしょうが、よろしくお願いします。
また若手諸君のレガッタも、今年はいつもとは違う所での開催となりました。7月の中学選手権が石川県津幡、高校総体が島根県さくらおろち湖、8月の新人戦が宮城県長沼でした。参加クルーもちょっと勝手が違ったかと思いますし、開催地のみなさんも大変だったでしょう。
ありがとうございました。
ただ、世界に目を向けると、ボート先進地のヨーロッパでは、ボートを引っ張って大会前日に現地入りし、レースが終わるとサッと帰っていくというタフなスケジュールが当たり前になっていて、これはジュニアクラスでも同様のようです。日本とはもちろん諸条件が違いますが、場所にしろ日程にしろ、世界と戦っていくためには、一面でこうしたタフさを培うことも必要かも知れません。
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FISA(国際ボート連盟)の2016年度通常総会が8月30日(月)にオランダ・ロッテルダムで開催されたので出席してきました。わたしは初めての出席でしたが、他にFISA委員として細淵雅邦さん、千田隆夫さんが、またオブザーバーとして崎山利夫さんが参加しました。
53カ国の出席でしたが、ほぼ200名での会議で、わたくしにとっては、得るところの多い総会でした。
通常総会は、日本ボート協会の総会と概ね同じような内容で、会長報告から各部門の説明、そして会計の決算・予算と進みますが、その他も含めて議題は21個、朝9時から11時半までびっしり続きます。
よくわからない英語を聞いているのは大変でしたが、途中で来年2月9日~12日に日本で開かれる「FISA臨時総会」の案内を、わたしから3~4分で簡単にしました。
その後昼食抜きで、12時から14時まで特別会議が開かれました。議題は、今一番ホットな「TOKYO2020での種目」問題です。この討議内容がじつに興味深くわたしには有意義でした。
よくご存知かとは思いますが、議論の前提はこうです。
「東京オリンピックから、選手数を男女同数にする、そのためには男子を55名減らさなければならないが、男子のどの種目を削り、女子の何を増やすか」
事前に各国の意見はFISAに提出されていて、日本は
「M4-を削り、LW4-を増やす」
という案を出しているのです。
会議では、まずスイスが、日本案と全く同じ案をじつに理路整然と主張したのは、「わが意を得たり」で嬉しく聞きました。その後、各国から何種類かの、多くは軽量級を残す案が出されました。
これに対し、ローランド会長は、「FISAとしては原案通り“LM4-を削り、W4-を増やす”という線で行かざるを得ない」という考えを厳しい表情で答えていました。
会長は、IOC(国際オリンピック委員会)の考え方、すなわち「オリンピックは巨大化しすぎた。根本から見直し、各競技の種目・参加人数を減らす方向で考えたい。ボートで軽量級種目がなぜ存在するのか、説明がつかない。バスケットボールで低身長種目を作るようなものだ」という主張に対して、わたし達が考えていた以上に、強い危機感を持っているような口調でした。
最後にオズワルド前FISA会長(現IOC委員)が立ち「ボートに軽量級を採り入れたおかげで、身体の小さな選手や国々に、広く普及が進んだ。スポーツのユニバーサリティにとって、最も進んだ考えで、絶対に間違っていない。バスケットボールで身長の低い選手はハナから挑戦をあきらめざるを得ないではないか。これではユニバーサリティが進まない。しかし今や、時代が変わり、考え方も変わってきたようで、ローランド会長は危機感を持っている。われわれとしては、各IOC委員に働きかけ、このボートの正しい考え方に共感してもらうよう努力しようではないか」と長口舌をふるわれ、大きな拍手を得ていました。
わたしは、このオズワルド前会長の考えに全面的に賛成です。
なお、来年2月9日~12日に日本で開かれる「2017FISA臨時総会」の議題は、まさにこの件で、どのような結論が導かれるか、歴史的な総会になりそうです。
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2020年の東京オリンピックを目指す、わがナショナルチームの目標種目には、軽量級だけに絞らず、オープン種目もターゲットに入れて検討するよう、理事長、強化委員長にお願いしています。
世界で戦うのに、正直、オープン種目では体力差が大きいので並大抵のことではないと思います。まずは身体能力の秀でた選手を集め・育てることが第一歩でしょう。東京オリンピックに向けて、「軽量級でなければオリンピックは狙えない」という考え方から一歩踏み出し、強化の幅を広げて挑戦したいと考えているのです。
以上