日本ボート協会JARA
全国のオアズパーソンへの手紙(第37信)
日本ボート協会会長
大久保 尚武
今年の全日本大学選手権大会(8月20日~23日戸田)は暑くもなく風もない好コンディションに恵まれ、男子8種目、女子4種目、それにオックスフォード盾を含めて全13種目で熱戦がくりひろげられました。観客数もたいへんな数で、目の子で1万人ははるかに超えていたと思います。結果は、早稲田大学が女子で全4種目制覇(史上初)、男子もエイトで注目されていた日本大学の10連覇を阻止するなど、まさに「早稲田デー」でした。
今回、わたしが注目したのは、優勝こそできなかったものの、決勝戦に進出を果したいくつかの大学です(常連校は別にして)。今、決勝には4クルーしか残れないのですから、たいへんな難事です。
3種目で決勝進出した立命館大学と日本体育大学、2種目で進出した富山国際大学と岐阜経済大学には拍手を送ります。中でも富山国際大学はB決勝にも4種目が残っており、最終日になんと6種目が残ったのです。寒い富山でどんな練習を積んでいるのか、一度じっくり聴いてみたいものです。
今の日本の大学クルーは、先のユニバーシアード大会やU-23世界選手権の結果に照らしてみても、世界と対等に戦える一流の水準にあると見ていいと思います。問題はその後なのです。シニアになって世界に伍していくには、おそらくあと3~4艇身(10~15秒)伸ばさなくてはだめでしょう。これをどうするか。日本ボート界の課題です。
なお、「東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会」の担当課長以下8人の方々が、最終日視察に見えました。全員ボートは初めてだそうで「凄い熱気ですね」と感想を述べていました。
× × ×
2017年2月にFISA(国際ボート連盟)の臨時総会を日本で開催するよう、この7月、ブルガリアでのU―23世界選手権大会の会場でJ・C・ローランド会長から直接要請を受けました。いろいろ検討しましたが、9月の日本ボート協会理事会で正式に受諾を決議する予定です。
会議の目的は、2017年9月に開かれるIOC(国際オリンピック委員会)の総会に提出する、FISAとしての改革案の審議です。改革案とは何かということは後で説明しますが、極めて重要な会議になりそうです。現在FISA加盟国は142ヵ国(近々5ヵ国増える)なのでおそらく200名を越える各国代表が集まる大会議になると思われます。
IOCはトーマス・バッハ会長を迎えて、「新しい時代に入った」と言われています。「21世紀、オリンピックを大きく改革する」として、いろいろ検討しているようですが、当面ボートに関係ありそうなのは、男女平等の推進(女子種目を増やす)と種目の見直し(新競技を入れるため、既存競技の種目と人数を減らす)という2点のようです。このFISAとしての改革案を2017年2月の臨時総会で決めようというのです。
男女比率については、2013年、それまでの男64%女36%から、男子を20名減らし、男60%女40%とする改革を決定し、来年のリオ・オリンピックから実行されます。その結果、例えば男子エイトはたった7クルーしか参加できないのです。ローランド会長は「いずれ50:50にしなければならない。その道筋を検討したい」という意向のようです。
次に種目の見直しについてですが、ポイントは2つあります。
ひとつは、ボートの参加選手数は現在550人で、オリンピック全28競技中3番目に多いので、「少し減らせ」と圧力がかかっているのです。もうひとつは「ライトウェイト競技はなぜ必要なのだ」という意見が、特にボートを知らないアフリカのIOC委員などから出ているようです。ローランド会長は、「身体の小さなアジア地区などにボートを普及させるために、つまり‘ユニバーサリティ’の観点で、ライトウェイトは絶対に外せない」というご意見で、当面大丈夫とは思いますが、潜在リスクであることは否めません。
以上、国際的に広く見ると、ボート競技もいろいろ問題をかかえていることがわかると思います。日本国内でこの動きを安直に右から左に取り入れようなどとは考えていませんが、とは言え、世界の動きをしっかり見据えて、改革すべきは改革していくことに躊躇するつもりはありません。
× × ×
今回の全日本大学選手権大会を観て、あらためて「レース数が多すぎる。時間がかかりすぎる」と思いました。初日、2日目は、朝7時半から夕方5時半までのなんと10時間です。参加クルー数をみると、男子シングルスカルが57クルー、男子舵手付フォアでも43クルー(215人)です。先に書いたオリンピックの参加クルー数と比較するのも変ですが、オリンピックでは男子シングルスカルが29クルー、男子舵手なしフォアが13クルーという絞り込みかたです。
これまで、ボートの全日本大会には特別の規則、予選をもうけずできるだけ多く参加してもらおう、というのが日本ボート協会の基本的な考えです。これは、すばらしいひとつの理念です。ただ、大会運営とのバランスということは、ここまでくると考えるべきではないでしょうか。
他のほとんどの競技では、全日本に参加するためには予選を行うのが、ごく普通のことです。予選に勝って「全日本に参加できる」というのが第一目標であり名誉だ、というのが一般だと思います。
先に述べた「改革」の、ひとつのテーマだと思いますので検討したいと思います。
これに関係あるのですが、7月のブルガリアでのU―23世界選手権大会で感心したのは、予選、敗復では全レース、5分間隔で発艇していることです。これは見物する者にとっては、全く退屈する暇もなく、エキサイティングで「なるほどな!日本でもやれないかな」と思ったことです。審判のあり方など、いろいろ難しい問題もあるかと思いますが、これも検討したみたいテーマのひとつです。
以上