公益社団法人日本ボート協会

Japan Rowing Association

日本ボート協会JARA

全国のオアズパーソンへの手紙(第36信)

2015年8月5日
日本ボート協会会長
大久保 尚武

図

いま世界のボートは図のように3つのカテゴリーに分かれいて、それぞれのカテゴリー内で各種のレースが組まれ、その最終戦が3つの「世界選手権」という構造になっています。この点はほぼ日本と同じと考えていいと思います。

7月中旬には日本のナショナルチームが挑戦する世界の各種レースの前半戦がほぼ終わりました。あとは3つの「世界選手権」だけということです。

このタイミングで、7月22日(水)、強化委員長の崎山利夫さんを中心に、清水一巳強化本部長、鈴木壯治強化アドバイザーを交えて、4人で食事をしながらあれこれ話し合いました。

前半戦での日本の戦績はどうだったでしょうか。ジュニアでは7月4~7日に「アジアジュニア選手権(中国・武漢)」に参戦しましたが、中国がやはり強く日本は女子の2×と1×の2位が最高でした。男子ではインドネシアなどがあなどれない力をつけてきたのが目立ちます。

U-23では7月5~7日に「第28回ユニバーシアード競技大会(韓国・光洲)」が開催され、皆さんご存知のように、軽量級で男子4―と女子2×が金メダル、男子2×が銅メダルという快挙を成し遂げました。大学生レベルでは世界のトップクラスにいることが証明されたわけです。

シニアクラスでは、6月18~21日の「ワールドカップⅡ(イタリア・バレーゼ)」と7月10~12日の「ワールドカップⅢ(スイス・ルツェルン)」に参戦しました。今年は冬季練習も相当積んだので期待したのですが、やはりシニアでの壁は厚く、2試合ともA決勝に進出はできませんでした。ただB決勝には「ワールドカップⅡ」では3クルー(軽量級男子の4―、2×、1×)、「ワールドカップⅢ」では2クルー(軽量級の男子2×と女子1×)が残りました。現時点での日本の実力はこのあたりということです。

こうした現状認識のうえに立って、「さて、これからどうすべきか?」を4人でいろいろ話し合いました。

現時点ではっきり目立つのは「U-23クラス」の充実ぶりです。この年齢頃まで、つまり大学生レベルでは世界と対等に戦っているといっていいでしょう。つまり「素質として世界と戦える人材」は間違いなくいるのです。それが「シニアの壁」(前ページの図の太線部分)をどうしても乗り越えられないのです。どうしてでしょう。その点が最大の課題だということで、皆の意見は一致しました。

対策としていろんな意見が出ましたが、多くはこれまでも言われてきたことで、要は「実行あるのみ」で、ただしその実現が難しいということです。

  1. U23選手のこれからの進路、就職先をどうするか。ボート選手としての活動を認めてくれる企業を、もっと開拓しなくてはならない。
  2. コーチ数の不足。これだけ幅が広がってくると、ナショナルコーチの数がどうしても足りない。
  3. 日本の「団栗の背比べ」的な環境に置いては伸びない。練習拠点をヨーロッパに設け、選手は少なくとも数ヶ月は定住し、厳しい競争環境で鍛えない限り、この「シニアの壁」は乗り越えられない(この意見が一番皆の同意を得られた)
  4. その際、日本人コーチをつけて一緒に定住させるのか、外国人プロコーチに委ねるのか、難しいところだ。他競技ではよく見られるように、コーチと選手は一体と考えて、ナショナルチームに入る時も「コーチ・選手一体」で入る方式もあるのではないか。

など、いろいろ興味深い意見交換会でした。この10月からの新しい2016年度シーズンに向けて、崎山強化委員長が中心になってまとめてくれると思います。

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7月24日から8月1日までヨーロッパに行ってきました。今回の目的は3つです。

  1. まずブルガリア プロブディフで開催された「U-23世界選手権」の応援をかねた視察です。
    レースの結果は立派なものでした。目標としていたメダルは1つでしたがA決勝に3クルーが残り、B決勝に2クルー。C決勝に1クルーとう成績は、イタリアチームの幹部からも「日本は強敵になった」と言われた程です。軽量級女子1×で銀メダルの冨田千愛選手が陸に上るとわたしはすぐに駆けつけ祝福しましたが、彼女の第一声が「金を狙っていたのですが……」だったのには驚き、また嬉しくなりました。
    ユニバーシアードの軽量級2×で金メダルを取った自信に裏付けられた第一声だったと思います。FISAのマット・スミス氏からも握手で祝福され、誇らしい瞬間でした。

    その後FISAのローランド会長とマット・スミス事務局長にお会いして、「海の森ボートコース」の新設計画が順調に進んでいることを報告し、特にスベトラ施設部長のご尽力に厚くお礼を申し上げてきました。
    会長からは新たに、2017年1月か2月に、東京で「FISA臨時総会」を開くことを要請されました。2017年9月のIOC総会に提出する「2020年東京オリンピックのボート種目の改定案」を討議したいというのです。ポイントは女子の出場者を増やし、男女比を現行の64%対36%から60%対40%にまで引き上げたい意向のようです。
    この総会には100ヵ国近くが集まるようで、新設の「海の森ボートコース」の進捗状況も見てもらい、海でのボートという、漠然とした不安を解消してもらうチャンスにもできると思います。
    前向きに検討することを約束してきました。
  2. 次にヨーロッパでの長期合宿場所の候補地を、自分の目でも見ておきたいと思い、イタリア ミラノ近郊の2ヵ所を視察し、管理者からも丁寧な説明を受けてきました。「バレーゼ」と「プジアーノ」で、いずれもこれまで日本ナショナルクルーが利用したことのあるコースです。
    両方とも自然に恵まれた、手頃な大きさの湖で、施設も十分に整っていて安心しました。いい練習相手と一緒になれれば言うことなしです。

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    バレーゼ

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    プジアーノ

  3. 最後に、わたしが舵手付フォアの整調として参加した1960年ローマオリンピックのボート開催地「アルバノ湖」を訪ねました。ひょんなことから、イタリアのOBクルーと再戦しようということになり、(わたしは漕がないのですが)センチメンタルジャーニーのひと時を過ごした感があります。
    東北大OBの千葉建郎さん中心のエイトと、東大OBの福田紘史さん中心のフォアが、それぞれイタリアの同年代のOBクルーと7月30日、アルバノ湖のコースで雌雄を決したのです。平均年齢約70歳ですから距離は500m。その結果、フォアは惜敗、エイトは完勝でした。
    この対抗レースに情熱を傾けてきた千葉さんの勝利に、応援団も大興奮、終了後のパーティでも大賑わいでした。
    55年振りのアルバノ湖は心に思っていた以上に美しく、ホテルから見下ろす湖面のきらめきには陶然としたことです。

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×     ×     ×

7月は各地で国内レースが開かれ、最盛期のシーズンでしたが、わたしは都合でどこにも行けませんでした。すみません。

毎年楽しみにして行っていた長良川の「中学選手権」も台風11号のため中止となりほんとうに残念です。7月31日~8月3日のインターハイは(まだ結果を聞いていませんが)どうだったのでしょうか。

次は国内では8月末のインカレ。そして海外では、8月7日からブラジル・リオデジャネイロで始まるジュニア世界選手権、そして来年のリオ・オリンピックの出場枠が決まる世界選手権がフランスのエギュベレットで開催です。

いずれも各選手、ベストを尽くして下さい。

以上