公益社団法人日本ボート協会

Japan Rowing Association

日本ボート協会JARA

全国のオアズパーソンへの手紙(第13信)

2013年9月1日
日本ボート協会会長
大久保 尚武
会長写真

8月25日(日)午後、インカレの優勝カップを渡し終えると、その足で成田からソウルに向かいました。 世界ボート選手権大会がその日から韓国で開催されているからです。 9月1日(日)までの8日間の日程ですが、前半の3日間だけ観てきました。 ですからまだ最終結果は分かりませんが、わたしが大会を観ながら感じたことを3点だけお話しておきます。

(1)まず驚いたのは参加国が増え、多彩になったことです。 全部で81ヵ国、1920名だそうですが、2005年の長良川世界選手権の時が56カ国、1300人ですからたいへんな増え方です。 増えたのはアジアと中東諸国が中心で、例えばインドネシア、マレーシア、インド、パキスタン、ベトナム、台湾、 シンガポール、タイ、香港、フィリッピンなど、アジア諸国が軒並み参加しています。 中東ではカタール、クエート、イラク、ウクライナ、ウズベキスタン、カザフスタンなどですが、 残念ながらこれらの国々がまったく弱く、殆んどのクルーが1分以上おいていかれるのが現状です。 これらをどうレベルアップするか、今後のARF(アジアボート連盟)の課題だと思います。

中国の参加が少ないのが目立ち、北京オリンピック後に少し気合が抜けたのかもしれません。 逆に南アフリカ連邦が張り切っていて、力強い漕ぎが目を引きました。

(2)コースはソウルの南東約100キロの忠州(チュンジュ)のダム湖に、60億円かけて昨年12月に新設された素晴らしいものです。 (1988年のソウルオリンピックの時のコースは、今や競艇場になって使えないそうです) ゴール際の観覧席には大型画面(3メートル×4メートルくらい)のスクリーンが2基あって、これが実に鮮明な映像を映し出します。 スタートからゴールまで、撮影用車両が走るためだけの2車線の専用道路を造り、 (2キロのうち1.4キロはなんと浮桟橋です)全コースを映しますから、観客はまったく飽きません。 日本のビジュアル技術ももっと進化させなくてはと、しみじみ思いました。 戸外ボート置場も広くて、リギングがしやすいと選手には好評です。

審判艇にも工夫があって、数百メートルおきに停めた審判艇に審判を配置しておいて、レースの後を追うのは1艇だけ。 波をできるだけ抑える工夫です。またタイムは人がストップウォッチで計るのではなく、GPSで瞬時に出てくるので、 ゴールした途端にスクリーンにタイムと同時に、タイム差も出てくるのはちょっとした快感でした。

(3)さて肝心の日本選手のレベルです。 わたしの観たのは予選と敗者復活戦だけなので、軽々しくは言えませんが、日本選手全体の力は一言で言うとBクラスでしょう。 Aファイナルへの進出は難しい。Bファイナル(7位から12位)に残るのも簡単ではない、そんなレベルが現状だと思います。 特にヨーロッパのボート強国が軒並み軽量級に参加してきているのですから、なおさらです。

この現状をベースに強化部が中心になって国際競漕力強化策を練るわけですが、 あくまでも私見ですが、A目標としてのオリンピック(軽量級3種目)でのメダル獲得と、 B目標としての国内での競漕力強化を通じた国際レースでのAファイナル進出、とを分けて対策を打つ必要があるのではないか、 などとレースを観ながら考えました。

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世界選手権の観戦の合間をぬって、3つの面談をしてきました。

(1)FISAのオズワルド会長とマット・スミス氏にお会いし、先日の来日のお礼をしてきました。 お二人ともこのボートレース場の出来上がり具合、特に撮影車両用の浮桟橋などには痛く感心したようです。 「東京五輪のボートコース設計は、世界の優れたボート場をできるだけ参考にすべきだ。いつでも仲介する」とサジェストもしてくれました。

(2)ARF(アジアボート連盟)事務局長のケン・リー氏といろいろ情報交換してきました。 「ボート競技にとってアジア、特に日・中・韓3カ国のレベルアップが重要だ」という点では意見が一致し、 また「アジアの大会をぜひ日本で開催することを検討してほしい」と強く要請されました。

(3)KRA(韓国ボート協会)のジン・ヨンナム副会長ほか幹部の皆さんとも話し合いをしてきました。 昨年来、韓国ボート協会の幹部の人が「市町村交流レガッタ」の視察に来たり、日本のジュニアクルーを韓国に派遣したり、 いろいろ交流が密になってきています。「今後いっそう交流を深めましょう」と握手してきました。

こんなすばらしいボートコースを持っている一方で、 市民レベルの普及にはナックルフォア艇が全国で30艇ほどしかないそうで「日本に追いつくには大変です」とこぼしていました。

なお番外ですが、9月のFISA(国際ボート連盟)会長選挙に立候補しているカナダのトリシア・スミス女史ともちょっとだけ話をしました。 いわば選挙運動中なわけで、立派な20ページほどのパンフレット(漕歴、業績、公約など満載)を頂きました。

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8月22日(木)から「第40回全日本大学選手権大会(インカレ)」が戸田で開かれました。 大学生の選手諸君が母校の名を背負って戦うこの大会は、団体スポーツとしてのボートの良さを実感するうえで、非常に大切な試合だとわたしは考えています。

それにしてもすごい人出でした。最終日は3万人近い観客だったのではないでしょうか。 女子クルーの参加が増えたせいだという人もいますが、父兄の観客も増えて、とにかく賑やかな大会でした。

今年は第40回ですが、40年前と比べてタイムはずいぶん進化しました。 当時はエイトで6分を切るのが目標でしたが、今年のエイトの優勝タイムは5分44秒46です。 国際レベルとしても、7月のユニバシアード大会でLM4-が銅メダルを取ってくれたのですから、そこそこの高いレベルにあるとみていいでしょう。

今年はコースコンデションが良かったせいもあり、見ごたえのあるレースが多く、 また良く訓練されたクルーも多くみられました。 その中で敢えてしぼると、エイト決勝で優勝した日大クルーに最後までくらいついた一橋大クルーの健闘を、わたしは讃えたいと思います。 タイムは5分47秒36で、日大に2秒90の遅れですが、後半の1000メートルでは日大に0秒49とわずかですが勝っているのです。 良き訓練の成果を見たような気がします。

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以前この欄でちょっとだけ紹介しましたが、 今年から(独)日本スポーツ振興センター(JSC)が「メダルポテンシャルアスリート育成システム」というものの構築に取り組んでいます。 簡単に言うと、スポーツの才能のある中学生(一部高校1年生)を発掘して長期的視点で育てようというプロジェクトです。

その一環としての「第1回地域タレントチャレンジプログラム」の合宿が、ボートを対象にして8月25日から1週間の予定で始まりました。 メンバーは13名(男4、女9)で、こういったプログラムに経験の深いイギリス人コーチが指導するものです。

スケジュールをみると、毎日かなり長時間の乗艇練習が組まれていて、どんな内容なのか、おおいに興味があります。 わたしは直接観ることができないのですが、日本ボート協会としては専任体制を組みます。期待するところ大です。

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以上