公益社団法人日本ボート協会

Japan Rowing Association

日本ボート協会JARA

全国のオアズパーソンへの手紙(第8信)

2013年4月1日
日本ボート協会会長
大久保 尚武

いよいよ水ぬるみ、ボートシーズン到来です。 わたしは今年もできるだけ全国各地のコースに顔を出し、皆さんの活躍を応援するつもりです。

まず3月22日(金)浜松市天竜ボート場に出かけ、 「全国高等学校選抜ボート大会」を見学してきました。 全国9ブロックから選抜された144チーム384名の選手が覇を競う大きな大会で、今年が第24回です。 天気は良かったのですが、上流で雪解け水の増水が激しく、ダムが少々放流したとのことで、 水路担当の役員の皆さんは「これまでで今年が一番厳しかった」とコースの整備に大わらわの様子でした。

高校生のレベルは本当に上がってきていて、時に全日本で勝つ選手も出るほどで頼もしい限りですが、 率直なわたしの気持を言うと、そろそろ世界で勝つことをぜひ目指して欲しい。 今年も「世界ジュニア選手権(8月リトアニア)」と「アジアジュニア選手権(10月ウズベキスタン)」に日本代表ジュニアクルーを派遣しますので、 ぜひともいい結果を出して欲しいものと願っています。

続いて3月23日(土)福井県美浜町久々子(くぐし)湖ボートコースで行われた「全国中学校選抜ボート大会」に顔を出しました。 美浜町は人口1万人そこそこの小さな町ですが、ボートが大変に盛んな町で、 この町のクルー中心の福井県チームが国体のボート総合優勝を勝ち取るほどです。 去年の町民レガッタも1日では終わらず2日がかりだったそうですから凄いものです。 ぜひ一度来たいと思っていてようやく実現しましたが、まず美しい水辺環境を目にして嬉しくなりました。 ついで山口治太郎町長はじめ町の幹部の皆さんの熱意、 さらに選手のご両親たちなど町のボランテイアの人たちの献身的なサービスぶりを見て「まさにボートの町だ!」と心から感動しました。

大会には全国から26団体・96クルーが参加しています。 レースはシングルスカールだけで、12~13歳の中学生たちがスカールを当たり前のようにスイスイ漕いで、 激しくレースを競っているのを見て「これだ!」と感慨深いものがありました。

と言うのは、わたしの現役時代(1960年頃ですから大昔ですね)わが大学にはスカールがなんと1艇しかなく、 漕げる人などほとんどいませんでした。ところがローマオリンピックの帰路、 ロンドンのテムズ河畔にあるハロー校(中・高校)の艇庫を見せてもらうと、 なんと生徒一人ひとりの名前が入ったスカールが、200艇以上もアームに並んでいるではありませんか。 ほとんど腰が抜かさんばかりでした。また1985年にドイツのポツダムボートクラブを訪ねたとき、 「わがクラブでは12歳からスカールを漕がせる。ボートセンスを育てるには、 スカールから始めるべきだ」と話すコーチの言葉がいまでも耳朶に残っています。

その時以来「12歳からスカールを!」といろんな場で言い続けてきたのですが、 遅ればせながら初めて現実にこれだけの中学生がスカールでレースをしているのを見て、大感動したわけです。

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ところで、この考えと矛盾するようで誤解を生むかもしれませんが、 わたしは真のボート精神を身につけるためには、一度はエイトを漕ぐ経験をして欲しいと思っています。

「真のボート精神」とは何かを議論しだすと面倒なことになりそうですが、 わたしは「一艇あって一人なし」という言葉が一番好きです。これこそボート精神だと思います。 自分がクルーの中の一人だという意識、クルー仲間に支えられて自分があり、クルーに貢献して初めて自分が活きる、 そう考えるのが「ボート精神」なのです。

理想的なボート人生をあえて描いてみると、12歳からスカールを漕ぎ「ボートセンス」を磨く、 徐々にダブルスカ-ル、クオドルプルと幅を広げていく、大学でエイトを漕ぎ対校レースを経験する、 そして社会人となって自分にもっとも合った種目で世界を目指す。こんなキャリアが理想だと思うのですが、どうでしょうか。

4月になると各地で学校対抗レースが盛んに行われます。 大学生諸君は上に述べたような意味合いで、チャンスがあればぜひエイト(もちろんフォアでもいいのですが)を漕ぎ、 クルーの仲間たちと力を合わせてライバル校と戦う醍醐味を味わってください。 勝っても負けても、一生の友を得ることができることは保証します。

わたしのような歳になると、一緒に漕いだクルー仲間が一番懐かしくて、他人とは思えないほどです。 現役時代、大先輩からはよく「同じ夢を見るようになれ!」と無茶なことを言われたものですが、 この歳になって振り返ってみると、「あのエイトを漕いでいた1年間は9人同じ夢をみていたのだなあ……」と納得します。

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国際レースにむけた日本代表クルーも徐々に決まってきました。

まずユニバーシアード大会(7月6日~8日 ロシア・カザン)には、 男女の軽量級ダブルスカールと男子軽量級舵手無フォアの3クルーを派遣しますが、 その8人の代表選手が決まりました。ユニバーシアード大会はいわば学生のオリンピックともいうべき重要な国際大会で、 そこへのボート派遣は20年ぶりですが、よい結果を残してくれることを期待しています。

ついで、U23世界選手権(7月24日~28日 オーストリア・リンツ)には、 今年は男女の軽量級シングルスカールと男子オープンのシングルスカールの3クルーを派遣します。 この代表選手も決まりました。 男女軽量級シングルスカールの2人はユニバーシアードの代表でもあり転戦することになりますが、 世界の中でどう戦いどう結果を出すか、しっかり挑戦して学んできて欲しいと思います。

シニア日本代表選手の選考合宿も1月以来毎月回をかさねて、 いよいよ4月末には最終決定する予定です。男子軽量級舵手無フォア、男女軽量級ダブルスカール、 男女オープンスカールの5種目を、ワールドカップ(6月のイートン及び7月のルツェルン)に派遣することにしています。

今年の世界選手権大会は8月末に韓国・忠州で開催されますが、どの種目に参加するかは、 ワールドカップの戦績などを勘案しながら決めようと考えています。

以上