日本ボート協会JARA
全国のオアズパーソンへの手紙(第5信)
日本ボート協会会長
大久保 尚武
明けましておめでとうございます。
全国の艇友のみなさんにとって、今年が充実した良い年になりますように、心から祈念いたします。
わたしは毎年元旦の朝は、自宅近くの湘南辻堂海岸に出て太平洋にのぼる初日の出を拝みます。幸い天気は良さそうなので、初富士も拝めると思います。初日に赤く染まった富士山は神々しくて、ほんとうに心が洗われます。
初漕ぎは戸田で1月5日(土)の予定です。
日本のボートの活動もずいぶん活発になってきました。各地で小学生のボートスクールができたとか、マスターズのみなさんの大活躍の様子など、多彩なニュースが飛び込んできて嬉しいかぎりです。こうした普及活動の進展をベースにして、世界と対等に戦えるトップ選手たちを育てることに今年も全力で取り組むつもりです。
わたしが今一番心がけているのはコミュニケーションです。現場第一線の声をできるだけ聞く、一方ボート協会の考えていることを正確・率直に伝える。そして話し合う。これが大事だと思っています。
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平成25年度(2013年)の日本ボート協会主催の国内大会の日程が発表になっています。5月の全日本軽量級選手権をスタートに全部で12あります。そして国際大会は、今年参戦を予定しているものが8つです(シニア4戦、U23が2戦、ジュニア2戦)。
世界ジュニア選手権(8月 リトアニア・トラカイ)への日本代表候補選手の第1次強化合宿が、12月13日(木)から17日(月)まで戸田で行われました。わたしも初めて観に行ってきましたが、全国の高校から選ばれた男子17人女子19人の候補選手たち、それに自費参加している46名(男女それぞれ23名)を加えた82名の大所帯です。選手たちは何組かに分かれて、陸上でのコンディショニングトレーニング(体幹筋の強化)、エルゴメーターでの漕法技術指導、水上でのスカール練習と順番に指導を受けています。それぞれよく練られた内容の濃い練習・指導なので、選手諸君はみんな真剣そのものです。
長内暢春さん(戸田ナショナルトレーニングセンター ディレクター)の体幹筋を中心としたトレーニング指導は、「体幹とは何か」の講義から始まって実際の強化トレーニング方法まで、(わたしのようなロートルにも)実によく理解できる内容でした。我々の時代とは(当たり前ですが)トレーニングは大きく様変わりしているのを実感しました。
大林邦彦さんのエルゴでの漕法技術指導にも感心しました。キャッチの型、フィニッシュの型をしっかり決め、余計な力を抜いて一気に可能な限り早く引きぬく。シンプルですが、観ているわたしまで年甲斐もなく興奮してくるような、情熱的な指導です。
この高体連ボート専門部の活動ですばらしい点が二つあります。
まず一つは、全国240の高校のボート部員約2500人(男子1700名・女子800名)全員のエルゴ記録が一か所に集まっていることです。そのデータに基づいて今回の26人の候補選手が選ばれているのですが、これは凄いことです。
もう一つは、本来競争相手である高校のトップ選手たち(及びその指導者たち)が一緒に合宿して、お互いの手の内やデータをさらけだしながら指導を受け、勉強していることです。高いレベルの指導を受け、強い競争相手を自分の目で見る。ずいぶん刺激も受け競争心も芽生えるでしょう。実に値打ちのある合宿だと思います。自費参加選手が46人もいるのは、みんなこの合宿の価値を認めている証拠です。
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シニアの国際大会への日本代表選手選考合宿も始まっています。
エルゴメーターの基準タイムをクリアして応募してきた男子47名(うち3名がオープン)、女子9名(同じくうち3名がオープン)の選手たちを対象に、12月19日(水)から3日間、戸田コースで第一次選考会を開催しました。
2000mのエルゴ測定と、スカールの6000mタイムトライアルで評価・選考は行なわれ、その結果、オープンでは応募者6名全員が、軽量級では男子25名・女子6名の計31名が、1月以降の代表合宿に残ることになりました。今後、毎月10日間程度の選考合宿を重ねて、最終的に日本代表クルーを決定します。候補選手諸君には、是非いい練習を積み、気迫をもって世界に挑戦してくれることを期待します。
ただ当然のことですが、今回選ばれた選手だけをわれわれは観ているのではありません。可能性のある選手たちの成長ぶりを、幅広くじっくり持続的に観ていきます。どのスポーツ競技でも同じですが、ある日突然に強くなることなどめったにありません。ジュニア、U-23、シニアと、積み重ねて着実に実力を付けていくのが理想です。選手諸君は、観るべき人がしっかり観ているのだということを信じて、長期的視野で練習に取り組んでほしいと願っています。
ところでひとつ話題のニュースがあります。この合宿の女子オープンに初めて参加した米川志保さん(愛知県旭丘高校1年生)が、2000mエルゴタイムで6分59秒3(女子9名の最高タイム)を出しました。彼女は水泳部からボートに競技転向してまだ半年ですから、もちろん水上での技術はまだまだですが、たいした才能です。
他競技の優れた資質を持つ人材をボート競技に転向してもらおう、という「タレント発掘・育成プロジェクト」は是非やりたいと考えているテーマです。一昨年の全日本選手権女子ダブルスカルで優勝した武沢歩惟選手は、バスケットボールから転向して1年でした(残念ながら引退されました)。去年のロンドン五輪の女子舵手なしペアで金メダルを取ったイギリスの選手もホッケーからの転向4年目ということで、イギリスでは成功例として話題になっています。
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大先輩で、かつてオリンピックや世界選手権の監督・コーチを務められた方々の話を伺いました。その際、「いま日本のスポーツで世界的に一番レベルの高いのは、フィギュアスケートだろう。相当しっかりした人材発掘・育成をやっているようだから、調べてごらん」という話でした。確かに男女とも世界を席巻しています。
1992年に始めた「長野県野辺山合宿(有望新人発掘合宿)」が重要なスタートだったようです。8~9歳前後の優れた子供たちを集めて、氷上の技術指導にとどまらない幅広い教育をし、才能発掘に努めたそうです。たしか荒川静香さんが一期生のはずです。
詳細な内容はもう少し研究してみますが、とりあえずは、今日の華やかなフィギュアスケート隆盛の背後に、20年間にもおよぶ軸のぶれない強化方針とそれを実行する弛まぬ歴史があったのだという事実を、重く受けとめたいと思います。
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今この手紙を書いている最中に、千葉県小見川での高校生ボート転覆事故のニュースが飛び込んできました。テレビの臨時ニュースでは最初「15名行方不明」と出たので、一瞬血の気が引く思いでした。しばらくして木村理事長から「全員無事」の電話が入り、本当にホッとしたところです。
テレビ、新聞などメデイアでは大きく取り上げられましたが、内容は妥当な範囲だろうと思います。メデイア対応をしてくれた小沢哲史さん(日本ボート協会 安全環境委員会 アドバイザー)から詳しい報告をもらいましたが、的確な回答・見解表明をしてくれました。ありがとうございます。
現地で対応にあたった先生方、とにかく選手たちの全員無事はなによりでした。大変でしたでしょう。本当にごくろうさま。ただ今後検証・検討しなければならない課題も、いくつか明らかになったと思います。安全環境委員会を中心に、早急な対応をよろしくお願いします。
ボートの安全だけは絶対に守りましょう。